人、資産、知的資産を承継する

人、資産、知的資産を承継する

事業承継の3つの選択肢とは

事業承継とは、経営の引き継ぎに他なりません。人、物(有形資産)、特許といった知財などの無形資産など、会社の舵取りに必要な経営資源一切を、新社長にバトンタッチするわけです。

事業承継の担い手候補としては次の3つに大別ができます。

❶親族への承継

主に経営者の子ども、配偶者や兄弟姉妹、おいなどの親族に承継する。

❷従業員への承継

社内の役員や従業員への承継。

❸M&Aによる事業承継

原則として、自社株式のすべてを社外の第三者に売却し、新資本の下による事業承継。

このうち、親族への承継が最もポピュラーで55%強になっています(下記グラフ)。社内の役員・従業員への承継は19%強で、残る約25%がM&Aもしくは社外招聘です。社外招聘とは、社外から経営者候補を探し、いわゆる「雇われ社長」として経営に携わってもらうもの。中小企業の事例はそう多くはありません。自社株式を外部の第三者に売却するM&Aに対して、社外招聘では株式のすべてか大半を前社長やその一族が保有することが一般的です。

3~5年をかけて徐々に確実に準備を進める

前述のように、中小企業経営者の過半が後継者不在の時代だからこそ、事業承継の準備は早め早めに取り掛かりたいものです。できれば、3~5年の準備期間を設け、具体的には以下のような準備を進めます。

❶自社株式の株価算定

❷自社株式の集約

❸不動産名義などの確認

まず行うのが❶の株価算定で、贈与税や相続税などの後継者の税負担がわかります。子どもなどに自社株式を贈与しても贈与税に耐えられそうか、あるいは自社株式の評価が高すぎるようなケースでは、親族承継を諦めM&Aを選択肢に加えるといった判断ができます。仮に親族承継する場合でも、後継者以外の親族が不公平感を抱かないような財産分与の道筋を早めから計画できます。

次いで❷の自社株式の集約にも取り掛かります。中小企業の経営においては経営と所有(株式の支配権)が一体であることが大原則です。取引先や退職した役員などの間に分散している株式があれば、この機に買戻しなどを進めます。そのためには資金も必要になります。同時に、❸本社ビルや駐車場といった経営に必要な不動産の名義確認も行います。本社ビルが現社長の個人名義になっているようなケースも多く、会社名義に転換できるかなどを検討します。

なお、仮に事業承継を諦め廃業を選ぶ際も、優良資産の一部を社員や外部の第三者に売却して引き継いでもらう選択もあります(下図参照)。

王道は親族への承継

新社長として最も一般的で社内外の納得感を得られやすいのが親族承継です。上部のグラフのうち、55.4%を占める親族ですが、このうち経営者の子どもが42.8%と大半を占めています。

前述の思い切った若返りも実現でき一見バラ色のシナリオですが、注意も要します。まず、自社株式の算定の結果、後継者の税負担が重そうな場合は、株価対策が必要です。準備期間中に役員報酬を増やすなどすることで、自社株式の評価を下げ、結果として税負担

を減らす算段をするのです。

また社内外の得心を得るため、後継の親族には会社の理念や志を再確認させるなど、「帝王学」を学ばせる必要があります。経営者としての心構えを確認し、年上も含めた現従業員との融和も進めておくべきです。自分の子どもなのだから二代目が務まるはずという楽観はくれぐれも禁物です。

 

しんきん経営情報 2019/12-2020/1月号 別冊「事業承継・資産承継」 転載

著書 石川 和司

発行所/株式会社ダイヤモンド社

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